【火焔の紅狸奴天狗と疾風の蒼帝天狗】11
──カッ。カッ。カッ。カタンッ。
月明かりが揺れる夜の静寂な町並みに響く、高下駄で地を蹴り天高く飛び立つ 一つの人影。
その影の主は背中に生えた大きな紅の翼をバサバサと羽ばたかせ。
夜の空にある黒い雲を一本の鋭い光の矢のように、全身で貫いていった──
紅の翼の男は、山伏のような真っ赤な着物を着ていて。黄金色の長く美しい髪を葉っぱの蔓で結い、その瞳はまるで漆黒の闇の色をしている。
後方からは小さな人影も飛んできて、その小さな影の主は、青と白の山伏のような着物を着ている。
小さな影の主は、背中に白い翼を生やした十歳くらいの可愛い顔をした男の子だ。
琥珀色の綺麗な瞳と、薄い水色のサラサラとした細くて長い髪を、青い紐で蝶結びのように結っていて
その結われた髪は、一本の長い尻尾みたいに風に吹かれてゆらゆらと揺れていた。
男の子は背中にある白い翼を羽ばたかせながら、紅の翼の男に近づいて行き、後ろから彼の名前を呼んだ。
「炎焔坊さまー」
「なんだ……小風丸か、また赤界門の見張りをサボって遊びまわってたんだな? ホントにどうしようもない子だ」
「いえいえっ! ちょっとした野暮用ですよ、さっきまでちゃ〜んと真面目に見張りをしてましたよ? 本日も異常無しでしたー☆」
「……」
紅の翼の男の名は炎焔坊、数千年の時を自由に生きる。緋天山に棲む、炎の力を自在に操る 天狗と呼ばれる日本の妖怪。小風丸もその名の通り、風を吹かす天狗の妖怪。
火焔の紅狸奴天狗炎焔坊と疾風の蒼帝天狗小風丸。天変地異を引き起こす大天狗と小天狗は、丸い月を背にして夜の空を飛行する。
「……嘘臭い顔だ」
「──なっ!? そ、そんな顔してませんよっつ」
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暗い山の中を早足で歩いて行く夏巳と女の子。
手足は泥だらけで冷たくなり、奥へ進めば進むほど寒さが増してくるように感じた。
山道を進んでいると、どこからか水の流れるような大きな音が聞こえた。
シャァァァー。
緋天山には天雨川と呼ばれる山から海まで流れて行く大きな滝川がある。
「ねぇ、どこまで行くの? あんまり奥に行くと帰り道わからなくてなっちゃうよ?」
「こっちこっち早く早く…… 」
女の子は夏巳の腕を掴んだまま離さなかった。
腕を引っ張られながら道を進んで行くと、二人は水流の音がする場所までやってきた。
どうやら此処が目的地の(良いモノが見れる)場所になるようだ。
「はぁ……良いモノってもしかして、この滝川のこと?」
夏巳は少しガッガリした声で、女の子に聞いてみると女の子は黙ったままボーっと立ち止まり。
激しく流れていゆく滝川を見つめながら、口だけをパクパクさせて、見えない誰かと何かを話しているように見えた。
「えっとっ……どうしたのっ?」