【美しい庭園 白いワンピースの女の子】09
都会から田舎に引越してきて、長距離移動の疲れもあり夏巳は夢見ることもなく、自分の部屋でグッスリと眠っていた。
数時間が経つと片耳にイヤホンをしたまま寝てしまったせいか、耳が痛くなり真夜中に目が覚めてしまう。
手に持ったままのゲーム機は充電がなくなり、画面は真っ暗になっていた。
「うっわぁっ!? やっちゃったよ……せっかく進んだのに〜くっそぉ」
耳からイヤホンをポイッと外し、ショックで枕にバフンッと顔を埋めて、数秒間そのまま固まるが、すぐに顔を上げて起き上がった。
「うぅっ。なんか……おしっこしたくなっちゃった……」
_____________________
_____________________
夏巳は自分の部屋を出て、電気の消えた暗い廊下をそ〜っと静かに歩きながら、トイレがある場所を探した。
「トイレどこだろう………」
祖父 善宗の邸宅は広く、まるで迷路の中にいるようで暗い廊下を一人で歩く夏巳を、少しだけ不安な気持ちにさせた。
徐々に暗闇にも目が慣れていき、洗面脱衣室から離れた場所に、トイレのドアらしきドアを見つけると、ドアノブをガチャッと回して中へ入った。
──うぇえ!? なに……このトイレっ!?
日本の田舎、とくに山間部にある家のトイレは水が流れないところもあり、善宗の家も「ボットン便所」と呼ばれる水が流れないトイレだった。
田舎の古い汲み取り式トイレに驚きすぎて、夏巳は腹を下したわけでもないのに、ゲッソリした顔でトイレのドアをそっと閉めた。
バタン。
「なんか嫌だな、このトイレ……使い方もわかんないや……洗浄レバーどこだよ??」
鏡のある洗面室で手だけを洗い、夏巳はトイレを後にした。
「母さんに、あの変なトイレの使い方を教えてもらおう……あれ?部屋って……こっちだったっけ?」
おしっこを我慢しながら母 夏夜子をあっちこっち探していると
いつの間にか迷子になり、気がつけば邸宅の渡り廊下まで出てしまう。
渡り廊下からは中庭の広い庭園が見える。
そこは辺り一面に白砂が敷かれてあり、敷石や鹿威しがコンッと音を立てる鯉のいる池や綺麗に手入れされた庭木がいくつも植栽されていて
池には赤い橋もかけられてあり、まわりにゴツゴツとした岩も置かれている。
庭園内には、境内と同じ山奥へ入るための出入り口のような赤い門が立てられてあり
赤い門は守火の明かりに照らされ、中庭の日本庭園をより一層美しく魅せた、夏巳はその美しさに一瞬だけ心を奪われそうになる。
「うわあ……」
_____________________
_____________________
山中にある邸宅の中庭は、山の草木や自然の匂いが漂い、渡り廊下には冷んやりとした夜の風が吹いた。
美しい庭園に魅せられていた夏巳もふッと我に返り、再び夏夜子を探しにいこうと、元来た方向へと戻ろうとした。
その時──
──ドシャッ!──カランッカラン。
「えっ!?……なに? 今の音?」
赤い門の外から、カランカランと音の鳴る子供の玩具のようなボールが、庭園内に敷かれた白砂に勢いよく投げ込まれた。
ボールが白砂にドシャッ!っとぶつかる音に驚き、夏巳は足を止めて中庭をぐるっと見渡した。
すると赤い門の外から白いワンピースを着た、自分と同い年くらいの知らない女の子が立っていることに気がつく。
女の子は夏巳に向かって、優しく微笑みながら小さく手を振っている。
「あれ、女の子だ……寺に子供がいるなんて母さん何も言ってなかったんだけどな 」
白砂に落ちたボールを見て、夏巳は赤い門の外にいる女の子が自分のことをずっと見つめながら何か一生懸命に語りかけているように見えた。
「なんだろう……あの子 」
渡り廊下から、中庭へ出入りするための低い階段を降りて、裸足のまま白砂に落ちたボールを拾いに行くと、夏巳は思いきって、その知らない女の子に話かてみた。
「 ……ねぇ? このボールって、もしかしてキミのー?」