【鎖が巻き付いた操り人形】​12

「お腹すいたの……ずっとなにも食べてないの」

「えっ?」

「でも食べちゃダメなの、食べると怒られるの」

「食べると怒られる? ……なんで?」

「炎焔坊が──怒る。」

「えんえんぼう? 」

 

「怒ると、とっても怖い……でも今はいない、いないから大丈夫……大丈夫」

 

女の子は声を震わせながら、そう呟くと首をぐるんっと回して夏巳の方へ顔を向けた。

 

「見つからないようにちょっとずつ、ちょっとずつ食べるんだ」

 

すると地面がボコボコと膨れ上がり、その下から白くて大きな毛玉のような生物が唸り声をあげて勢いよく飛び出した!

 

「うわぁあっ! なに……これ?」

 

夏巳は驚いて後退りすると、女の子の顔からは両方の目玉がポロリと抜け落ち。体中の皮膚がドロドロと溶けて、地面に垂れ流れていった。

 

皮膚の無くなった女の子の姿は、人間が白い骨だけになってしまった死体。骸骨だった。

 

骸骨の背骨には、毛玉のような謎の生物のフサフサとした大きな尻尾が絡みついてあり。銀色の鎖がジャラジャラと巻き付いていた。

 

恐怖に怯える夏巳には、その鎖が巻き付いてある骸骨が、まるで謎の生物の操り人形のように見えた。

 

 

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バタン(玄関のドアを閉める音)

 

 

「もうお父さんったら冷蔵庫にある飲み物、全部お酒しか置いてないんだからホント困っちゃうっ」

夏巳が探していた母 夏夜子は、玄関で自分が履いていた靴を脱ぎながら、片手にミネラルウォーターや缶ジュースが入った手提げバックを持ち、溜め息混じりに愚痴をこぼした。

 

彼女は夏巳が部屋に戻ってから、夜ご飯の後片付けを済ませて一人で山寺を下りていた。

 

冷蔵庫の中には、子供が飲めるような飲み物が何も無く、わざわざ買いに商店まで歩いて出かけていたのだった。

 

夏夜子はキッチンの冷蔵庫を開けて、息子の好きなオレンジジュースやら買ってきた飲み物を次々しまうと、冷蔵庫のドアをパタンと閉めて、その場を後にした。

 

「もうこんな時間……早くお風呂に入って、私もそろそろ寝なくちゃ! ああ、そうだわ……夏巳、ちゃんと寝たかしら?」

 

夏夜子はリビングにある振り子の付いたレトロな掛け時計を見て、時間を確認すると、廊下へと出ていき 、早足で夏巳のいる部屋へと向かった。

 

子供の頃から大人になるまで暮らしていた彼女の実家だから、迷うこともなく夏巳の部屋の前につくと。

 

環境が変わってしまった息子が新しい部屋で、ちゃんとぐっすりと眠れているのかを確認するため、襖をそ〜っと開けて中を覗いた。

 

部屋は電気が消えていて真っ暗だった、畳に敷かれた布団だけがグショグシャに乱れてあり。

電源の消えたゲーム機は床に放置されたまま そこに夏巳の姿はなかった。

 

 

「──夏巳?」

 

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孫の夏巳に怖がられてしまい、若い僧侶たちが寝泊まりする宿坊で寝ることになった夏夜子の父 善宗は、仲が良いお気に入りの若い僧侶 二人を座敷に呼んで、また酒を浴びるように呑んでいた。

 

「はぁーぁ。可愛い孫に怖がられるような怖ぇ〜爺さんになんか、なった覚えはねぇ〜んだけどよぉ」

 

若い僧侶たちは酒を飲み、おつまみを食べながら善宗の愚痴話を笑いながら聞いていた。

 

「何年も前に会っていた、としても あっちはまだ小さくて覚えていないですからね〜初対面みたいなものですよ?」

一人の僧侶はビー玉のように透き通ったガラスのぐい呑に冷たい酒を注ぎながら、赤ら顔になっている善宗に笑いながら言った。

 

華奢で背が高く 黒髪が肩にかかるくらいの長さの僧侶だ。

 

「そんなお爺さんが風呂場にいきなり入ってきたらそりゃお孫さんも驚きますって〜ねぇ」 

 

もう一人の僧侶も黒い皿の上にのったイカのおつまみを箸で掴みながら言った。メガネをかけた朗らかな表情をした背の低い僧侶だ。

 

「んあぁ〜 そうかぁ? ワシなら喜ぶんだけどなぁ〜」

善宗は僧侶に差し出されたぐい呑を受け取り、すごく残念そうな顔をして大きな声で言う

 

「和尚 あまり大きな声を出すとみんな起きちゃいますよ〜?」

「あっははは、そうだったなぁ〜 悪ィ悪ィ」

 

宿坊で寝泊まりする、他の僧侶に見つからないように、善宗と二人の僧侶は内緒で酒盛りしていた。

 

数時間が経つと三人は酔いもまわりはじめ、そろそろこの辺で御開きにしようかと思った。

 

その時──

 

玄関の引き戸を誰かが、ガラガラと勢いよく引き開ける音がした!

 

誰かの慌てて走る足音は、座敷で酒を飲む善宗たちの所までだんだん近づいてくる。

 

「和尚、なんか……誰か来ましたよ」

 

「あぁー? なんだぁ? こんな時間に来客かァ? ワシはもう寝るぞ〜」

 

善宗が畳にゴロンと寝転がると、座敷の襖をスパーンッ!と勢いよく開けて、夏夜子が息を切らしながら大きな声で父を呼んだ。

 

「お、お父さん! お父さん起きて! 大変なのっ!」

 

「な〜んだよぉ 夏夜子か? どうしたんだ、そんなに慌てて」

 

夏夜子がいきなり現れると、二人の僧侶たちは他の僧侶に見つからないように、急いで酒器を隠そうと非常に慌てた。

 

「夏巳がいない……っ! どこにもいないのっ!」

 

「──はぁん!?」

 

涙目になりながら、夏夜子が善宗にそう訴えると、騒ぎを聞きつけた他の僧侶たちが、何事かと四人のいる座敷へゾロゾロと集まって来た。

 

「まずいな、まぁ ちょっと落ち着きなさい……」

 

善宗は起き上がり、娘の夏夜子がパニックにならないように静かに宥めた。

 

久しぶりに会えた可愛い孫が、急にいなくなったと聞かされて、酒の酔いもさめていった。