【焔の町商店街】15

クル……クル ……

 

ニゲロ……ニゲロ……

 

エンエンボウ、ガ……オッテクル。ワタシヲ コロスト。オッテクル

 

エンエンボウ、ガ。カエッテ……キタ……モヤサレルカラ ニゲナクチャ

 

ニゲナクチャ……

 

モヤサレル……モヤサレル……ル

 

 

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白い毛玉のような妖怪 山祟りは、凄まじい速さで緋天山を下りて町の商店街へ向かった──

 

【焔の町商店街】

 

 

骸骨を引き摺りながら走る。山祟りのフワフワとした真っ白な体毛は泥だらけになり。

 

商店街にある、木で造られた赤い列柱のアーケード内をゆっくりと通りながら、地面にボタボタと泥の足跡を残していった。

 

空は段々明るくなり、時間は早朝四時を過ぎた。

 

陽焔寺では、何人もの僧侶たちが善宗に駆り出され。邸宅内から居なくなった夏巳を、必死に探し回っていた──

 

 

「おーい、おーい!」「夏巳の坊ちゃーん」「隠れているなら出ておいでー」

 

 

若い僧侶たちは大きな声で夏巳を呼んでいた。

しかし この時すでに山崖から落ちて炎焔坊に助けられていた夏巳は、皆が自分を探し回っていた事など全く知らずにいた。

 

善宗は赤い門の側で息子の無事を祈る、愛娘の夏夜子を宥めていた。

 

 

「和尚……何処を探しても全く見つかりません」

 

宿坊で一緒に酒盛りをしていた若い僧侶の二人が、善宗と夏夜子の側に駆け寄った。

 

「もしかして……下山して一人で街に行ったとかじゃないんですかねぇ?」メガネをかけた背の低い僧侶が考え込むように言った。

 

「こんな時間にかァ? どこも開いてねぇーだろう?普通行くかァ?」

 

善宗が呆れた顔でそう言うと、もう一人の華奢で背の高い僧侶が深刻な表情をした。

 

「まぁ普通は行きません……けど小さな子供っていきなり予測不可能な行動をとったりするんですよ。自分の子供もちょっと目を離しただけですぐどこかへ居なくなったりとか、しょっちゅうですよ」

 

「うーん。そうかぁ……」

 

「ぼくら二人で街まで行って探してみます。和尚とその……お嬢さんは、もしかしたらお孫さんが自力で戻って来るかもしれませんから、この場に居てください!」

 

「そうだな……そんじゃ お前らぁ、頼むわ」

 

「はい!」

 

若い僧侶二人は声を揃えて返事をすると、善宗に頭を下げて境内を走って出て行った。

 

「夏巳……何処に行っちゃったの? お父さん! わたし、やっぱり山奥まで行って夏巳を探してくる!」

 

「待て待て、もうすぐアイツも帰って来る。お前まで迷子になったらどーすんだァ? それにまだ 山奥に入って行ったとは限らんだろう?」

 

「でも、わたし……夏巳が心配」

 

「そりゃ ワシらだって心配だぁ……けどこの時間に緋天山の奥に入るのはちとマズイんだよ。ここにいる妖怪たちは皆夜明けに目を覚ます」

 

「……」

 

「境内や山道には赤界門が建てられてあるから心配いらんがぁ……今の緋天山の奥深くには、人間に飛びかかっちまう、ワシらだけじゃ手に負えねぇ乱暴な妖怪もいるんだよ」

 

「……でも」

 

「もう少し辛抱してくれ 子供の足なら、そう遠くまでは行けないはずだ」

 

 

 

 

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【焔の町商店街】

 

 

商店街には何店舗も小さな店が立ち並び

町に住む人々や、力の弱い小妖怪の往来も多く 賑やかな場所となっている。

 

大天狗の炎焔坊は、人間の子供 夏巳を抱き抱えながら小天狗の小風丸と共に地へ降り立った。

 

初めて見た、天狗の妖怪 炎焔坊に最初は驚き戸惑い。動揺していた夏巳も、少しずつ気持ちが落ち着いていた。

何故なら、トイレに行こうと部屋を出て行ったはずの夏巳は、未だに用を足しに行けず そろそろ我慢の限界に来ていたからだ。

 

──ゔぅー。

 

夏巳が急に大人しくなり、炎焔坊は自分を信用してくれたのかと少し嬉しそうな顔をした。

 

そんな炎焔坊の顔を隣で見ていた小風丸は、なんだ面白くなさそうな表情をした。

 

「……炎焔坊さま、街へ向かって行った山祟りをどうしますか?」

 

小風丸がそう言うと炎焔坊は腕に抱き抱えていた夏巳を、地面にそっと降ろし、夏巳の目の前で跪いた。

 

「夏巳くん、この小風丸と二人で少しの間ここで私を待っていてくれないか?」

 

──えっ?

 

夏巳は訳が分からないまま、黙って小さく頷いた。この時 夏巳は初めて炎焔坊と目が合った。

 

「小風丸、私は今から街まで行って山祟り探して来る。──夏巳くんを頼んだぞ?」

 

「はっ……はい!」

 

そう言って炎焔坊は立ち上がり、背中の大きな紅の翼を広げ、高下駄で地面を強く蹴ると、空高く舞い上がり飛んで行った。