【火焔の妖怪の力】17
店の主人を呑み込んだ山祟りは満腹になり。
地面につくほどの大きく膨らんだ腹を、ゆっくりと引きずりながら、その場から静かに立ち去ろうとした その時。
──ドスッ。
赤い閃光のような一本の鋭い矢が、山祟りの背中に突き刺さった。
その刺さった矢はまるで海の中にある血赤珊瑚のような、とても美しい色と形をしている。
カタン カタン カタン……
山祟りは、自分の後ろから近づいてくる。高下駄で歩く 誰かの足音に気がつくと、恐る恐る後ろを振り返った。
「エンエンボウ ガ……キタ」
山祟りは、一瞬 全身の血管が浮き上がりピタリと動きを止めた。
炎焔坊は片手に大きな赤い弓矢を持ち、山祟りにゆっくり近づくと
眉間に皺を寄せ 不快な物を見るような、とても冷たい目をして言った。
「山祟り……答えろ。なぜ 私の許可なく人間を襲った」
「ハラガ……ヘッタ」
「人間の代わりになる食べ物なら、今朝 僧侶たちがお前の為に山程用意したはずだ。何故それを食べなかった?」
「ナイ……ナイ クイモノ……ガ、ナイッ!」
山祟りが苦しそうな声でそう答えると、炎焔坊は山祟りの背中に刺さった矢を乱暴に引き抜いた。
矢に付着した山祟りの赤い血を見ると、炎焔坊は言った?
「お前がしたことは大罪だ。もう見過ごす事は出来ない── 」
矢は、赤から黒い色に変わり。炎焔坊が地面に投げ捨てると瞬く間に燃え、灰となって散っていった。
「──!!」
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「あー。戻って来た」
小風丸は自分の小さな手で、眩しい朝の日差しを避けながら上空を見上げ 独り言のようにポツリと言った
「えっ?」それを聞い夏巳も、小風丸と同じ方向を見る
空は、雲ひとつ無く 目が眩むくらいに鮮やかな青い色をしている。
夏巳は遠くの空に、小さな黒い点のようなモノが見えることに気がついた。
「ん? 何だアレ? なんか……こっちに向かって来てる」
「炎焔坊さまだ。山祟りを連れて緋天山に戻って来た」
「山祟りも連れて戻って来たの……あんな危ないやつを?」
「焔の町商店街では、人間たちが暮らしてる。どんな理由があっても、街で殺生はしないと炎焔坊さまは、寺のおじいちゃんと固い約束を交わしてるから」
「殺生って──」
「近づいて来た。ここは危ない、ちょっと隠れるぞ」
「えっ、なに? 隠れるの? ちょっ……ちょっと!」
小風丸は、夏巳が着ているパジャマを背中から片手で鷲掴み。
自分の背中にある白い翼を羽ばたかせ 夏巳を抱えて風のようにふわりと飛び立つと、高い木の上へ 登った。
──次の瞬間。
緋天山に向かって、空から勢いよく山祟りが飛んで来た!
くるくると回転するサッカーボールのように、山祟りが山の木々に激しく衝突すると、木の上に隠れていた小風丸と夏巳は、驚いて同時に声を上げた。
「うわぁっ!!」